「河岸忘日抄」堀江敏幸

ずいぶん時間をかけて読み終える。忘れないうちにその臨場感にひたったまま、がーと短時間で読み終えるような内容ではなかったので、安心して、本を閉じたり開いたりを繰り返した。電車に乗って、少し読み、顔を上げて窓からの景色を眺める。そしてまた本に戻る。活字と風景を行ったり来たりするのがとても心地よかった。
いつも頭の中は、何かをつらつら考え、また別のことをつらつら考え、いろんなことを思い出したり忘れたりしながら、焦点をいろんなものに合わせていく。そういう途切れながらも繋がっていく感じが、書かれている文章の流れと共鳴して、読後感よりも読中感に満足。それにしてもこの作家、この何年かでいろんな賞を取りまくっていたのね。最初はなんだっけーと思い起こして、トーベ・ヤンソン特集のユリイカに載っていた「のぼりとのスナフキン」を読み直す。賞を取るような力の入ったのもいいけど、こういう軽いタッチの、いいよなあとにんまりする。

堀江