谷川健一さんと森浩一さん

週末、谷川健一さんの訃報のニュースが飛び込んできました。その20日前には森浩一さん。
谷川さんは92才、森さんは85才。ご冥福をお祈りします。
丁度、お二人が参加したシンポジウムの古い本([amazon_link id=”4093900612″ target=”_blank” ]沖縄の古代文化―シンポジウム[/amazon_link])を読んでいたのでびっくりしました。

谷川さんは、大きな中央中心の歴史ではなく、地方や地方の人や伝承、地名など地に足がついた民俗学の中心的人物として活躍しました。
「白鳥伝説」「青銅の神の足跡」など記紀のような歴史書から記述を消された金属民の話は非常に面白く日本の古代を知る上で非常に重要なものでした。
「海神の贈物」や、まだ読んでいませんが「海と列島文化」など、南の島に残る古代日本文化の痕跡も非常に興味深い仕事だったと思います。
星野之宣の古代史をテーマとした漫画「宗像教授シリーズ」の「白き翼 鉄(くろがね)の星」は、谷川さんの白鳥伝説が種本となっています。白鳥を神聖視するユーラシア大陸の製鉄技術を持ったヒッタイト一族の末裔が日本に至り勢力を伸ばすが、後に衰退し東北地方に移っていく・・・という話だったと思います。ヤマトタケルノミコト伝説は、それをアレンジしたものだとしています。
日本は、弥生の稲作民がそのまま国家となって今にいたっているように歴史の時間では教わっていますが、もうちょっと複雑だということを知れば、日本文化の複雑性の構造が少し見えてきます。

「太陽」の初代編集長だったとは初めて知りました。
実は、日本の文化の成り立ちに興味を持ったのは20年ほど前の「太陽」の特集がきっかけでした。
もちろんその時期には谷川さんは太陽には関わっていなかったと思いますが、日本の文化の成り立ち又は源流について谷川さんを探す旅だったのか?とも思いました。改めて著作を読んでいきたい。

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老子

NHKで老子の番組をやってます。
古代中国の思想家では、孔子や孫子が取り上げられることは時々ありましたが、老子の番組をみるのは初めてかも。
4回シリーズですが、専門家の解説もいいので、とっつきやすい内容です。

老子は、20世紀中盤に西洋の思想世界に衝撃を与え、日本にもタオイズムとして再上陸して、ニューサイエンスと合わせて、サブカルチャーにも大きな影響をあたえました。
ジョージ秋山の浮浪雲は、まさに老子の世界を表現していたと思います。
先日、樹木希林のインタビューを観ましたか、彼女の行動原理も、見事に老子そのもの。これまで見聞きした人物で、最も老子的かも。

老子の思想は、破壊力はありながらも、それを全ての行動原理にしてしまうと、胡散臭くなるか、社会生活が成り立たなくなるか、なので、希林さんのトークをそういう目で見ると、希林さんの器がよりはっきり見えてきます。

老子が破壊力がありながらも、マイナーな位置にとどまっているのは、表現が皮肉というか、孔子に対するカウンター的になりすぎてるきらいがあるかと思います。
逆に言うと、孔子とセットで老子を読むと非常に面白い。

例)
人物A「今から会議をするぞ」
悪い儒家「だれを上座にするかが一番大事だ。案内状の句読点をチェックしたか?」
悪い道家「会議などする必要のない組織がいい組織だ」といってすっぽかす

老子 [amazon_image id=”4003320514″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]老子 (岩波文庫)[/amazon_image] [amazon_image id=”4091800513″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]浮浪雲 (1) (ビッグコミックス)[/amazon_image] [amazon_image id=”4875021852″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]タオは笑っている (プラネタリー・クラシクス)[/amazon_image]

藝人春秋

[amazon_image id=”4163759107″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]藝人春秋[/amazon_image]

今朝、早く目がさめたので水道橋博士の「藝人春秋」を読みました。
水道橋博士は、youtubeの「博士も知らないニッポンのウラ」「博士の異常な鼎談」で目に止まった人物。
ゲストを読んで話を聞く、インターネット番組ですが、ゲストの質がいい。
サブカル好きで、80年代に思春期だった世代には非常にツボにハマる内容だった。
通常の対談番組は、ゲストのいいところをゲストに都合よく引き出すものが多いが、この番組は、水道橋博士のしっかりとした事前準備(資料の読み込み)と絶妙な突っ込みで、知的な笑いを生み出すものでした。

特に傑作だったのが、苫米地さんの最初の回。
「藝人春秋」でも触れられていたが、苫米地さんの延々と続いた自慢話の後に、いかがわしい着メロの話を突っ込む。
苫米地さんのうろたえながらの切り返しも見事。

「藝人春秋」は、ネットの「博士の〜」の世界観をそのまま文章にしたもの。
作りこまれた文章と選ばれたエピソードは、短い時間で読み進ませて、涙とともに心地よい読後感を生み出します。

細部にこだわる物知りの突っ込みというのは、お笑いではなかなか難しかったと思います。
特に理屈っぽいところもあるので。
特定の対象(相方)に突っ込むのではなく、社会全体(特に自分が好きな世界)を対象に突っ込むというポジションをうまく創りだすことに成功し、新たな話芸を展開してる。そんな感じです。

実際、師匠であるビートたけしからは40代で行き詰まると心配されたが、50代で自分の道を花開かせました。

健さん2

仕事の流儀の高倉健さんの特別番組を観ました。
たけしが言っていた孤独な人とという表現が一番言い表してるように思います。
撮影でも、撮り直しはありません。廻りがダメ出しをすることはあり得ないですし、本人もやり直しはしないでしょう。スタッフも粗相がないように最大限の配慮をしていますからトラブルもない。
何を言っても聞いてもらえる。どんな行動をしても許容される。
自分が受け止められてるのか?それとも自分の名前が受け止められてるのか?我々には想像しかできない環境に置かれてると思います。

去年、金田一さんの講演会で、人の立場によって言葉遣いが変わってくるという話をしていました。
例えば美智子皇后の言葉遣いが美しいという話。しかし我々が同じ言葉遣いをしても滑稽なだけです。
それは、断れない立場で、何を言っても叶えられる立場の人は、それに応じた言葉遣いをしないと廻りが迷惑する・・・という話でした。
特定のものを公の場で褒めると、それ以外のものから相対的に持ち上げることにもなります。

健さんも同じような立場にいながらも、それを引き受けて、俳優としての人生を歩んでいる・・・という話でした。
もちろん俳優だけではなく、あらゆる業界の神格化されている人は、誰しも陥る孤独感だと思います。

今夜ジョブズ亡き後、最大の新製品の発表会があります。
神格化された創業者亡き後、残されたスタッフは何を語り、何を表現するのか?
楽しみにしてる人も多いと思います。