禅の修行

ある本を読んでいたら、この本を紹介していたので読んでみました。
美大出身の元パッカーの青年が、永平寺に修行に行く話です。
学生の頃から鈴木大拙の著作が好きだったので禅には興味は持っていました。
もちろん庭や建築を始めとする様々な禅の美意識への興味も。
鈴木大拙は同じ禅でも臨済宗で、永平寺は道元が始めた曹洞宗。
読み進むに従って、似ているけど違うというところが強烈に響いいてきます。

毎年100人以上が永平寺に修行に行くそうです。
日常の動作や行為全てが悟りに向かう修行であるとのことで、一挙手一投足全て厳しくて細かいルールが有ります。
そのルールを大量に覚え、行動しないと、殴る蹴る罵倒される。
食事は偏っているため脚気になるものも続出。
しかし、一年経つとそれなりに行動できるようになり、著者は修業を終え、娑婆に帰ってきます。

この曹洞宗特に永平寺の修行のスタイルは、戦前の軍隊の教練にも導入されたようで、結果的にそれがスポーツ界にも導入され、大阪の体育高校や戸塚ヨットスクールあたりもその影響下にあったと言えると思います。
ただ、厳しさの先にあるものの違いは大きい。
曹洞宗の一人ひとりの生活における気付きから悟りに向かう意識のベクトルは、金太郎飴のような屈強な兵隊をつくるものとは正反対だと思う。

著者は一年で下山しているが、その後の人生も気になっています。

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アップルを創った怪物

この本は、もう一人のスティーブの自伝。
いわゆるスティーブ・ジョブズは言うまでもない英雄で、様々な場面で語られてきましたが、こちらのスティーブは、まるっきり正反対のキャラクターでありながら、多くの人達の尊敬を集めている人物。
二人がAppleをつくったのち、ウォズが外され、ジョブズがMacintoshをつくり紆余曲折を経て今に至っているという感じ。
Macintosh以前のAppleや、そこで創りだしたAppleI、AppleIIそしてパーソナルコンピューターを産んだエンジニアがこの愛すべきウォズでした。

長い時間をかけてインタビューすることでこの本をつくっていますから、物事を伝えようとする姿勢や語り口が、ウォズの人柄をうまく表現することに成功しています。
Appleが素晴らしい製品を生み出す土台を作ったのがウォズであると同時に、パーソナルコンピューターの土台をつくったのもウォズだった。
この最初の土台の部分をうまくやれるかどうかはその後のそのジャンルの成否に大きな影響は有ります。
例えば、日本の電気が東西で50Hzと60Hzになってる。このことが、東西の電力の融通を阻害する上に、今更一本化もできない。こういう最初に埋め込まれた根本的な欠陥は意外とあるもの。
しかし、コンピューターがパーソナルなものになる土台のところでウォズが果たした成果のお陰で、世界の人たちが、自由で手軽な道具として無くてはならない物になってる。

Appleが成功せず、大企業となっていなかったら
Appleに参加せず、hpで働きながらAppleIIの設計をしていたら
ウォズがエンジニアとして一線で仕事し続けていたかもしれない。
すると、もっと多くのわくわくするような発明がもたらされていたかもしれない。
そう思わせる本です。

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谷川健一さんと森浩一さん

週末、谷川健一さんの訃報のニュースが飛び込んできました。その20日前には森浩一さん。
谷川さんは92才、森さんは85才。ご冥福をお祈りします。
丁度、お二人が参加したシンポジウムの古い本([amazon_link id=”4093900612″ target=”_blank” ]沖縄の古代文化―シンポジウム[/amazon_link])を読んでいたのでびっくりしました。

谷川さんは、大きな中央中心の歴史ではなく、地方や地方の人や伝承、地名など地に足がついた民俗学の中心的人物として活躍しました。
「白鳥伝説」「青銅の神の足跡」など記紀のような歴史書から記述を消された金属民の話は非常に面白く日本の古代を知る上で非常に重要なものでした。
「海神の贈物」や、まだ読んでいませんが「海と列島文化」など、南の島に残る古代日本文化の痕跡も非常に興味深い仕事だったと思います。
星野之宣の古代史をテーマとした漫画「宗像教授シリーズ」の「白き翼 鉄(くろがね)の星」は、谷川さんの白鳥伝説が種本となっています。白鳥を神聖視するユーラシア大陸の製鉄技術を持ったヒッタイト一族の末裔が日本に至り勢力を伸ばすが、後に衰退し東北地方に移っていく・・・という話だったと思います。ヤマトタケルノミコト伝説は、それをアレンジしたものだとしています。
日本は、弥生の稲作民がそのまま国家となって今にいたっているように歴史の時間では教わっていますが、もうちょっと複雑だということを知れば、日本文化の複雑性の構造が少し見えてきます。

「太陽」の初代編集長だったとは初めて知りました。
実は、日本の文化の成り立ちに興味を持ったのは20年ほど前の「太陽」の特集がきっかけでした。
もちろんその時期には谷川さんは太陽には関わっていなかったと思いますが、日本の文化の成り立ち又は源流について谷川さんを探す旅だったのか?とも思いました。改めて著作を読んでいきたい。

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老子

NHKで老子の番組をやってます。
古代中国の思想家では、孔子や孫子が取り上げられることは時々ありましたが、老子の番組をみるのは初めてかも。
4回シリーズですが、専門家の解説もいいので、とっつきやすい内容です。

老子は、20世紀中盤に西洋の思想世界に衝撃を与え、日本にもタオイズムとして再上陸して、ニューサイエンスと合わせて、サブカルチャーにも大きな影響をあたえました。
ジョージ秋山の浮浪雲は、まさに老子の世界を表現していたと思います。
先日、樹木希林のインタビューを観ましたか、彼女の行動原理も、見事に老子そのもの。これまで見聞きした人物で、最も老子的かも。

老子の思想は、破壊力はありながらも、それを全ての行動原理にしてしまうと、胡散臭くなるか、社会生活が成り立たなくなるか、なので、希林さんのトークをそういう目で見ると、希林さんの器がよりはっきり見えてきます。

老子が破壊力がありながらも、マイナーな位置にとどまっているのは、表現が皮肉というか、孔子に対するカウンター的になりすぎてるきらいがあるかと思います。
逆に言うと、孔子とセットで老子を読むと非常に面白い。

例)
人物A「今から会議をするぞ」
悪い儒家「だれを上座にするかが一番大事だ。案内状の句読点をチェックしたか?」
悪い道家「会議などする必要のない組織がいい組織だ」といってすっぽかす

老子 [amazon_image id=”4003320514″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]老子 (岩波文庫)[/amazon_image] [amazon_image id=”4091800513″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]浮浪雲 (1) (ビッグコミックス)[/amazon_image] [amazon_image id=”4875021852″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]タオは笑っている (プラネタリー・クラシクス)[/amazon_image]