本能寺の変 431年目の真実

[amazon_image id=”4286143821″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]【文庫】 本能寺の変 431年目の真実 (文芸社文庫)[/amazon_image]

著者は、リタイヤした理系サラリーマン出身の民間歴史研究者。
苗字から分かる通り、明智光秀の子孫だそうです。
最近、こうした団塊の世代のリタイヤした民間歴史研究者による本が目につきますが、かなり興味深いものが多い。
着目点がプロ歴史研究者と違って斬新で、丹念な資料研究やフィールドワークをベースにしているものは、内容も濃く面白い。
この本も、斬新かつ資料研究が広い上に深く、読み応えがあった。
恐らく、本能寺の変の真実の9割は当たってると思う。

最初は、世間で言われてる定説がいかにいい加減かということを一つ一つ証明していきます。
僕達が、あたかも真実と思ってることを、この調子で洗っていったら、ほとんどつくり話じゃないかとも思います。
学校の歴史の教科書で書かれてることも、基本的には現時点の定説でしかないので、話半分と思っておくのが正しい歴史との向き合い方のように思います。具体的な事実関係は正しくても、その事件の動機や登場人物の善悪などは明らかに編集されてると思います。

この本の著者は、定説と言われているストーリーの原典や更にその引用元をあたり、それらの当時の情報の流れを整理することから推理を始めます。
こうした政変に関わる情報は、あるストーリーを後付けする意図を持って書かれたものもあれば、あえて書き残されないものもあります。そこで、当時の日記まで調べて、その時代の空気の流れまで読み込んでいきます。
その結果到達した結論は、非常にリアルで深く、当事者の心理的な動きが手に取るようにイメージできます。

ただ一点、動機の部分がまだ弱いと思います。
本能寺の4ヶ月前には、明智光秀が武田勝頼に謀反の連携を呼びかけたらしいのですが、そうであるなら毛利や上杉にも呼びかけたと見るのが自然です。
毛利→安国寺恵瓊→羽柴秀吉 というルートで情報が漏れたと見るのことが自然だと思います。
もう一つは、近衛前久の動き。この人物が黒幕とする説があり、僕はそれが現実的との思っていましたが、この本では名前が一度出てきただけ。
果たして明智光秀が一人でやらかしたことなのか?という意味で、この人物が黒幕でありながら、敗色濃厚と見て切り捨てたという線は説得力があります。
本能寺の変は、226事件と似た性質がありますが、226事件も実行者の単独行動ということで幕引きがなされました。
黒幕とはいえないまでも、後ろ盾のような存在がいたとしないと、この事件の最後のピースがはまらないと思います。

その後の、豊臣秀次や千利休の切腹事件も、この本能寺の変の延長線上に解いています。
それも、かなり興味深い分析なので、それぞれ一冊にまとめて欲しい内容ですが、黒幕として近衛前久が動いていたと思うなら一連の動きとしてさらに説得力は増すように思います。

お見事!というスッキリ感のある好著でした。

風たちぬ

昨日、風立ちぬを観てきました。
僕も飛行機大好き少年だったので、同じ浸透圧を感じながらの鑑賞でした。
堀越さんのことは、小学生の頃読み漁った飛行機の本で知り、最も尊敬するエンジニアだったので、活き活きと描いてくれて嬉しかった。アーサーランサムのティモシィっぽかったけど偶然かな。
宮崎さんは零戦の設計には触れなかったが、それに至るまでを丁寧に描くことで、物語を成り立たせている。

今日、宮崎さんは6度目の引退宣言をしたけど、描くべき自分の内面の葛藤を描き切ったという感じか。
ポニョではおっかなかったお母さんとの関係。
風立ちぬでは、飛行機好きであることに加えて、実家が戦時中、陸軍の軍用機工場であったこと。
政治的信条と、家業との葛藤は常にあったと思います。
複雑な内面の葛藤を上手く作品にしたと思います。
「戦争の道具を作った人」の映画を作ることに、奥様やスタッフをはじめ多くの人から非難めいた質問を受けたようです。堀越=父だったのではないか。ひょっとすると堀越=宮崎さん自身だったのかもしれない。
肯定もせず、否定もせず、子供っぽさに逃げることなく。寡黙に淡々と仕事と家庭を愛する。人生を貫くその姿勢が、その非難めいた質問への答えだったのでしょう。

映画の技術としては、今回は背景の美しさや臨場感に驚きました。
丁度関東大震災が起こった日だったこともあり、東京の災害のシーンは今でも深く印象に残っています。
東京は、東北の震災の4倍の被害者をうみ、長崎の原爆以上の空襲の被害者をうんだ悲劇の町。そうした悲劇から何度も立ち上がったことを先ず物語の背景に据えたことに、宮崎さんのメッセージの重さを感じました。

映画とは関係ありませんが、堀越さんの零戦の設計で最も素晴らしい点。
高速性と旋回性を両立させたこと。
当時は、二律背反だったのでどちらかを選ぶしかなかった、
堀越さんは、主翼を少し上向きの角度で取り付ける事で、不可能を可能にしました。
風立ちぬでは、零戦の前に設計した96式艦戦のプロトタイプの試験飛行のシーンがありました。
この機は、主翼が下に折れ曲がっている逆ガル式。この折れ曲がっている下の折れ点を胴体にくっつければ、零戦のように上に傾いた主翼になります。試運転した96式艦戦は、試作2号機から逆ガルをあきらめて通常の主翼に戻ります。逆ガルにしたかったメリットを次の零戦にうまく取り入れたということかもしれません。
その逆ガル式の戦闘機は、ドイツユーカーンス社の格納庫で眺めるシーンがあります。
飛行機目線でこの映画を観ると、逆ガル式がかなり重要である事がわかります。

mainVisual

[amazon_image id=”4041105102″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]風立ちぬビジュアルガイド (アニメ関係単行本)[/amazon_image]

[amazon_image id=”4101004021″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)[/amazon_image]

谷川健一さんと森浩一さん

週末、谷川健一さんの訃報のニュースが飛び込んできました。その20日前には森浩一さん。
谷川さんは92才、森さんは85才。ご冥福をお祈りします。
丁度、お二人が参加したシンポジウムの古い本([amazon_link id=”4093900612″ target=”_blank” ]沖縄の古代文化―シンポジウム[/amazon_link])を読んでいたのでびっくりしました。

谷川さんは、大きな中央中心の歴史ではなく、地方や地方の人や伝承、地名など地に足がついた民俗学の中心的人物として活躍しました。
「白鳥伝説」「青銅の神の足跡」など記紀のような歴史書から記述を消された金属民の話は非常に面白く日本の古代を知る上で非常に重要なものでした。
「海神の贈物」や、まだ読んでいませんが「海と列島文化」など、南の島に残る古代日本文化の痕跡も非常に興味深い仕事だったと思います。
星野之宣の古代史をテーマとした漫画「宗像教授シリーズ」の「白き翼 鉄(くろがね)の星」は、谷川さんの白鳥伝説が種本となっています。白鳥を神聖視するユーラシア大陸の製鉄技術を持ったヒッタイト一族の末裔が日本に至り勢力を伸ばすが、後に衰退し東北地方に移っていく・・・という話だったと思います。ヤマトタケルノミコト伝説は、それをアレンジしたものだとしています。
日本は、弥生の稲作民がそのまま国家となって今にいたっているように歴史の時間では教わっていますが、もうちょっと複雑だということを知れば、日本文化の複雑性の構造が少し見えてきます。

「太陽」の初代編集長だったとは初めて知りました。
実は、日本の文化の成り立ちに興味を持ったのは20年ほど前の「太陽」の特集がきっかけでした。
もちろんその時期には谷川さんは太陽には関わっていなかったと思いますが、日本の文化の成り立ち又は源流について谷川さんを探す旅だったのか?とも思いました。改めて著作を読んでいきたい。

[amazon_image id=”4087725480″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]白鳥伝説[/amazon_image] [amazon_image id=”4087721930″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]青銅の神の足跡[/amazon_image] [amazon_image id=”4093871043″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]海神の贈物―民俗の思想[/amazon_image] [amazon_image id=”4267016933″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]宗像教授伝奇考 (第1集) (潮漫画文庫)[/amazon_image]

老子

NHKで老子の番組をやってます。
古代中国の思想家では、孔子や孫子が取り上げられることは時々ありましたが、老子の番組をみるのは初めてかも。
4回シリーズですが、専門家の解説もいいので、とっつきやすい内容です。

老子は、20世紀中盤に西洋の思想世界に衝撃を与え、日本にもタオイズムとして再上陸して、ニューサイエンスと合わせて、サブカルチャーにも大きな影響をあたえました。
ジョージ秋山の浮浪雲は、まさに老子の世界を表現していたと思います。
先日、樹木希林のインタビューを観ましたか、彼女の行動原理も、見事に老子そのもの。これまで見聞きした人物で、最も老子的かも。

老子の思想は、破壊力はありながらも、それを全ての行動原理にしてしまうと、胡散臭くなるか、社会生活が成り立たなくなるか、なので、希林さんのトークをそういう目で見ると、希林さんの器がよりはっきり見えてきます。

老子が破壊力がありながらも、マイナーな位置にとどまっているのは、表現が皮肉というか、孔子に対するカウンター的になりすぎてるきらいがあるかと思います。
逆に言うと、孔子とセットで老子を読むと非常に面白い。

例)
人物A「今から会議をするぞ」
悪い儒家「だれを上座にするかが一番大事だ。案内状の句読点をチェックしたか?」
悪い道家「会議などする必要のない組織がいい組織だ」といってすっぽかす

老子 [amazon_image id=”4003320514″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]老子 (岩波文庫)[/amazon_image] [amazon_image id=”4091800513″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]浮浪雲 (1) (ビッグコミックス)[/amazon_image] [amazon_image id=”4875021852″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]タオは笑っている (プラネタリー・クラシクス)[/amazon_image]