万城目学さん

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中学生の息子が薦めてくれたので、万城目さんの小説をいくつか読んでみました。
デビュー作である「鴨川ホルモー」は、京都の大学に通う大学生達に伝わる秘密の行事を描いたもの。
京大生が主人公で、京都の大学や地域がかなり具体的に出てくるにも関わらず地元民的目線ではないので、実際京都の大学に通ってた人かなと思ったらビンゴでした。
僕も学生時代、休みのたびに京都の庭や寺を廻っていたので、なんとなくの気分はわかります。
「ホルモー六景」は、「鴨川ホルモー」の外伝的な短篇集。
構成がしっかりしてるので、外伝が厚みを深めるいい感じに仕上がっています。
「プリンセス・トヨトミ」は、大阪が舞台。
大阪城の地下に・・・・という話。
ある商店街が濃密に描かれています。著者の育った街だそうです。
大阪育ちで京大法学部卒。この小説でも、内閣法制局に出向した経験のある会計検査員が主人公で出てきます。
子供の頃に妄想しがちな愉快なお話をファンタジーとして作品に仕上げてるというところは面白いですし、都市や街といった空間的スケールの描き方も面白い。
ヤングアダルト世代からお年寄りまで楽しめる時空間の物語です。

「本へのとびら」と「真夜中の庭」

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たまたま、宮崎駿さんの「本へのとびら」と、植田実さんの「真夜中の庭」を前後して読みました。
「本へのとびら」は宮崎さんが岩波少年文庫からお気に入りの50冊をチョイスして、短いコメントを寄せたもの。ジブリが制作した非売品の「岩波少年文庫の50冊」を第一部としてまるごと載っけています。第二部はBSなどで放送された宮崎さんへのインタビューなどを載っけています。
「真夜中の庭」は植田さんが本に描かれた物語の中に存在する場所や空間についてのエッセイ。様々な雑誌等への連載をまとめたものです。
宮崎さんは昭和16年生まれ。僕の母と同い年。建築評論家の植田さんは昭和10年生まれの僕の父と同い年。
親の世代が書物を通して心に描いた風景を読み取れましたし、自分との時間の差も感じ取れたという意味でも非常に面白かったです。

僕が子供の頃、月に一冊好きな本を買ってもらっていましたが、岩波少年文庫は好きなだけ買っていいというルールもありました。
あれを読めとか、これは読むなとかという制約は特になかったのですが、自由に手に入る岩波少年文庫という広い地平から得た物はすごく大きかったように思います。

今、さっと思い出す物といえば、、、、
チャペックの「長い長いお医者さんの話」、アミーチスの「クオレ」、「プー横町にたった家」、「とぶ船」「シャーロックホムズの冒険」
岩波のハードカバーではアーサーランサムシリーズ、ドリトル先生シリーズなどなど。
自分で選んだ物よりも、最初に親がまとめて買ったもののほうが印象に残ってるように思います。自分に近い人が選ぶ意外性のある出会いの方が、いい出会いができるという事かもしれません。

最近は中三の息子が、面白かったから読んでみれば?と本を薦めてくれるようになりました。
今朝読んだのは万城目学さんの「鴨川ホルモー」。
若干コミカルなファンタジーが好きなようです。これも自分ではまず手に取らないものなので、意外性があって楽しめました。

謎手本忠臣蔵

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加藤廣さんの歴史小説です。
これまで、桶狭間や本能寺などの様々な歴史上の謎解きをテーマに小説を書いてきましたが、これは忠臣蔵がテーマです。
浅野内匠頭は、なぜ吉良上野介に激怒したのか?
庶民レベルではいくつかの説はありますが、正確な理由は明らかになっていません。
つまり隠されたのではないか?というところがベースになっています。
語り手は、将軍綱吉の側用人柳沢吉保です。
謎解きはまずまずの面白さですが、加藤さんのストーリーの背景にいつも出てくる、関白近衛前久という人物。
足利幕府末期から織田、豊臣、徳川の難しい時代に、朝廷のいわば何でも屋という感じで、武家政権との外交や、裏交渉、陰謀に至るまですべてやった強烈な政治家・・という感じの人だと思います。
本能寺の変を仕掛けたプロデューサーという説も濃厚です。
忠臣蔵でも、近衛前久の子孫がやはり絡んできます。

この近衛前久がらみの人物に、八条宮智仁親王という人物がいます。
こどもが出来なかった豊臣秀吉が、皇族から養子をもらって、豊臣家を相続させるとして候補に上がっていた人物です。
しかし淀君が秀吉との接触のない時期に懐妊。秀頼誕生により養子縁組がご破算になった事件の片方の主人公です。
この智仁親王が作った遊びのための建築が桂離宮です。
そして兄の後陽成天皇が智仁親王を後継にしようとしたが家康に反対され、後陽成天皇の子が後水尾天皇となります。
後陽成天皇の女御で後水尾天皇の母は近衛前久の娘です。
娘の婿が桂離宮を作り、孫が修学院離宮をつくったわけです。
又、老後は銀閣のある慈照寺東求堂で隠居したということですので、ある意味政界と建築界の大プロデューサーだった人かもしれません。

菜の花の沖

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司馬遼太郎の「菜の花の沖」を読みました。
僕の故郷である川尻の船乗りが出てる・・・という話だったので。
1行ほど出てました。
江戸時代中期に、乗り組んでいた北前船が日本海で漂流し、ロシアに漂着したが、脚気を患って一人早々と日本に返還されたそうです。
その川尻の久蔵は、日本に初めて牛痘を持ち込んだとして、ある筋では有名だそうですが、その牛痘は広島藩に上納され、使われること無くどこかで干からびてしまったそうです。
川尻という小さな町は、弘法大師にゆかりのある野呂山という山があることで多少知られていますが、輩出した有名人というと、この久蔵と、毒オレンジ事件の金平会長の二人しかいません。
この本に出てたのは一行ですが、郷土の先輩がどういう場面でどういう事をしてたのか。なんとなくイメージが湧きました。

この「菜の花の沖」の主人公高田屋嘉兵衛。これを読むまでは、大黒屋光太夫とどっちがどうだったかあやふやだった程度でしたが、、、
民間の英雄というのはこういう人!という書きぶりですね。
司馬さんの特徴である、若干人を褒め過ぎなところはあるとしても、先見性、合理性、情熱、人に対する優しさと誠意など、日本人の理想形を絵に描いたような物語として仕上がっています。

嘉兵衛は淡路島の出身ですので、同じ瀬戸内といっても西と東で若干の風景の違いはあるかもしれませんが、江戸時代の中期以降の、日本の国内の物流が瀬戸内を繁栄を生んでいた時代がいかなる時代であったか。一人の英雄の活躍を通してうまく描ききれていたように思います。
日本の金銀の算出も止まり、行政は停滞し、アメリカが独立した後に欧州ではフランス革命、そしてナポレオンが活躍していたこの時期に、船乗りの視点で歴史を描くという、座標を設定自体見事だと思いますし、嘉兵衛の活躍した事件は、ペリー来航に間接的にはつながっていく訳で、逆に言うと、江戸時代が最後に花咲いていた時代かもしれません。
ただ、後半1/4くらいは時代背景の説明になっていて、ここがコンパクトになると流れは非常に良くなると思いますが・・・
しかし、この時代を描くに最もふさわしい人物によって、日本と世界の情勢も含めて描いたいい作品だったと思います。