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林家雑記 その7 

風呂


お風呂の電球が切れた。
真っ暗の中で入らなくてはならない。身体を洗うのに困るので、入口に白熱灯の小さな照明を置くことにする。ぼんやりと薄暗がりに湯気が漂い、どこかの温泉宿のようだ。湯の肌触りもなんだか違う気がして、ちゃぽちゃぽという音まで耳に心地よく響く。
窓も開けてしまい冷たい空気を取り込んで、露天風呂仕様にする。身体の隅々までしっかり洗う義務的な入浴から、一挙に自宅温泉客となる。気に入ってしばらくそうしていた。
思い立ってある日電球を買い明るいお風呂に入ってみると、これが白々と興ざめで一瞬にして夢から覚めてしまった。あのひなびた温泉宿で疲れた心と体を癒すような、人生をかみしめた肌を柔らかくほぐし、首筋に感じるなんだか官能的な気分や、湯が滴るなかなか色っぽい二の腕とか肩とか、溜息が幾重にも響き、冷たい一滴が背中に落ちて、あんっ、なんていうお風呂の快楽は、どこへいってしまったのだ。
こう明るくっちゃあ、健康ランドみたいじゃないか。(行ったことないけど)


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