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林家雑記 その13 


その夜はいつになく話が盛り上がり、未来の世の中のこと、宇宙のこと、私たちの信じるものについて二人とも興奮して喋っていた。話は日常から離脱して、広大な世界を遊泳していた。
夜もずいぶん更け、あかりを消して布団にはいった後も、頭がはっきりしてしまいとても眠りにつける状態ではない。無理に目を閉じて困ったなあと思っていると、突然Kが声を上げた。
「あれっ!光ってる」すでにKは半分身を起こして窓の方を見ている。こういう反射神経がKは異常に発達している。野生動物のものだ。何時も遅れをとるわたしは、Kの声にどきいんと心臓が大きくなって、布団の上でもぞもぞしている。「え、やだ、なに、全然見えない」慌てて眼鏡をとあたりに手を伸ばしても、こういうときに限って見つからない。Kはさっさと自分の眼鏡をかけ立ち上がり、窓の方に向かう。「ちょっと待ってよ」慌てるばかりで見えない暗闇で眼鏡を探しながら、確かにあの窓の隅何か光っているのがぼんやりとわかる。あそこに何かいる。未確認飛行物体か。
uほたるだv窓を開けた勇敢なKが言う。「えっ、ほたるなの」やっと手にした眼鏡をかけ、窓から身を乗り出す。その小さな光の点滅は、はっきりと夜の中に浮かんでいた。一個の小さな光だ。
すべてが寝静まった世界を静かにゆっくりと飛行し、黙って見ている二人の鼻先を横切っていく。小さな宇宙人を乗せた乗り物みたいだ。真夜中の地球旅行。あたふたしてしまったこちらのことなどおかまいなく、優雅に飛び続ける。そしてそのまま隣の家の脇をツーと通り抜け、路地を曲がっていく。世の中がすべて蛍のために静かにしているようで、私たちも黙ってその光を見送った。
消え入りそうになりながら瞬き、小さな存在を明らかにしていたその光が、またどこかで光るのではないかと、目を凝らして待ってみる。
夏になる頃の夜の匂いが、月のわずかな光と共に満ちている。
私たちは窓を閉め、手をつないで眠りについた。なんだか神様に会ったようで、安らかに眠りに身をゆだねた。


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