カメラをあえて持たずに日本を飛び出しました。かっこよく言えば場を肉体化する旅と位置づけてのことでした。
バブル崩壊の前夜。自分の精神と肉体と情報と場のシームレスな「瞬間」を体験するためには、「のぞき込んで記録する」機械を経由して物と対峙することに自信が持てなかったせいかもしれません。
しかし砂漠を越え、山脈を越えるうち、そんなことはどうでも良くなりました。自と他の関係性が希薄になったというか、自意識を経由せず、物事の判断ができるようになったせいかもしれません。
日本に帰れるかどうかという懐具合ですが、テヘランでカメラを買うことにしました。理由はシルクロードで最も物価が安かったからです。
ガソリンが5円/l。飛行機に30分乗って500円。カメラを買うにはここしかなかったのです。
それでも、ほぼ一日の間、道具屋街をうろつきました。
当然中古ばかりです。ライカもたくさんありました。
オリンパスのペンをさがしてたら、なんと小さな角張ったカメラがちょこんと座っています。Rolleiと書いているその機械は、ほぼ手のひらに収まる大きさで、全てマニュアルです。
本来なら、2〜3時間価格交渉をしないといけないケースなのに、拍子抜けするくらい簡単に買ってしまいました。