いさむのぐちが壊れた。
と書くとなんだか危険な少年が現れそうだが、イサムノグチがデザインした和紙の照明器具のこと。
個人の名前でダイレクトに物を指し示すことはそうはないよね。「AKARI」という商品名でなく、敬意と親近感を持ってイサムノグチと呼んでいる、のだと思う。
さて、主照明がなくても、このイサムノグチがあれば大丈夫なのである。生きていける。夜の闇の中でひとりぶんを照らすには充分。
そしてここが大事なこと、もしひとりが寂しくなっても、このときこそ、イサムノグチは本領発揮する。彼女、彼氏をわが家へと招く。そして二人の空間をイサムノグチが浮かび上がらせる。暗闇にほのかな白熱灯の効果は絶大。見たい物を美しく見せ、見たくない物は隠してくれる。豪華な食事もなく、高価なプレゼントもなく、気の利いた科白もない場所でも、そこは二人が見つめ合う特別な空間になる。
というわけでひとりでも良しふたりならなお良いイサムノグチ。
部屋の片隅に置かれ、時々その軽さ故に転倒や破損はたびたびだ。障子に花形の和紙を張り付けるかのごとく、ちょいちょいと修復される。やがて白く張りのあった和紙が黄ばんでがさがさしてくる。さんざん破れて正方形の継ぎだらけになる。
それでもそれはイサムノグチのヴァリエーションであり、私の和紙アートって感じでなかなかいいのだ。
しかしついに全面的に壊れてしまった。和紙部分は修復不可能。骨組みと電球部分は問題なし。解体して、骨組みを利用し、荒く織ってある麻布をかぶせてみた。イサムノグチはもはやそこには存在しない。イサムノグチものがたりはこれにておしまいか。
でもイサムノグチを内包しながら全然別の照明が出現した。ものがたりは奥が深いのである。
また新しいイサムノグチ買わなくちゃ。