のりの図書館通い

★ 目に入ったら、ぜひよんでみて
★★ 再読したい、もしくは購入したい
★★★ すぐにでも手に入れたい


「須賀敦子のアッシジと丘の町」文/写真 岡本太郎 河出書房新社★★★   
この岡本って誰だろうという好奇心を抱えながら読み進めましたが、須賀さんやアッシジに近いところにいる人だというのはわかりました。私の中の須賀さんとアッシジは別の所にあったのですが、この本を読んでしっかりと結びつきました。たった一泊しただけの10年も前のアッシジの想いでは、いつまでも褪せることのない私の中でもだいじなもの。アッシジを写した写真を見ただけでもこみあげるものがあるのに、それが須賀さんと結びつき、須賀さんを慕うこの岡本さんの文章を読み、再びあのサン・ダミアーノを本の中で訪れ、涙が出てしまいました。死んでしまう前に訪れたいところがあるとしたら、アッシジです。


2月   
・「回送電車」堀江敏幸 中央公論社
同年代の文学青年(男子よ)のお友達がいないので、彼の(同年)著作を年を取りながら読んでいけることを嬉しく思う。どういうポジションで物書きをしていくかという心構えのようなものが、よくわかる、と感じている。刹那的に指の間からこぼれ落ちるような時間ではなく、波の音が果てしなく続く老境の時間をともに過ごしたい、と思うような相手。
・「建築の終わり」岸和郎×北山恒×内藤廣 TOTO出版
なんとなくこの3人のなかでは内藤さんがいいなと思ってたのが、なんとなくが強化されました。なんとなく思うことは、あまりはずれなかったりします。ただ彼の持ち味である危うさまでは気が付かなかったので、危うくだまされてたのか、という気もします。でもそれも含めてはずれてないので、「だまされてもいいの」状態なのでしょう。高尚な単語が飛びかう中「建築の神様」が急に現れちゃったりもする、楽しい建築談義でした。
・「日々の考え」よしもとばなな リトル・モア
キッチンを読んだのは、遠い日だ。人生のある季節がシンクロしてしまう歌がある。例えばユーミンのある歌を聴くと、あのときのあの場面が浮かんでしまうといったような。(そういう年頃だったの。)そういうようなシンクロ観が吉本ばななキッチンでデビュー、そのあとの数作、確かにあった。そういう恋愛が人生とイコールのような生き方をしていて、「これ、わたしのことだわ」って思っていた女の子たち、沢山いただろう。確かにその、思い切り言い切って、あるリズムに貫かれている文体。少女漫画のように展開していってしまうストーリー。新しいけどよく知っているものが現れて、やられたなあとも思ったものだ。でもすごく売れちゃって古本屋には山積みになってるし、何年かして読み返すと、なんだか賞味期限切れのような味気なさもあったり、なんであんなにシンクロしたのだろうかという気恥ずかしさもあったり。もう小説は読んでいないのだけど興味本位でこれを借りてしまった。読んだ後で、彼女もたくましく生きているなあと思い、ちょっと前のエッセイかなと思ったら、いやいや本当に最近のモノだった。ちょっと前も、今現在も、もうずっと前も、彼女は実はおんなじなのであった。私の中では変わっていたのにね。こういうかんちがいな読者が大勢いて、作家はいやだろうなあ。でもやっぱり小説はもう手に取らないような気がする。
・「「建築学」の教科書」安藤忠雄他 彰国社
学生になった気分で読みました。建築畑のひとたちは、こんなふうに熱く語る人が多いような気がして…。アート系や文学系とは違うなあと、昔から感じていました。情熱と冷静と共にあるというか、誰かの小説のタイトルみたいだけど。それにしても妹島和世さんの文章には驚きました。なんですかこれは?
・「日本のはしっこへ行ってみた」吉本由美 NHK出版
ちょっと期待はずれでした。なんというかはしっこ感覚が予定調和的というか。本人の旅の中では大変そうだったりもするんだけど。もと東京のバブリースタイリストだものねって気がしちゃうのは穿った見方?


2004.1月   
・伊藤比呂美「またたび」集英社
良いおっぱい悪いおっぱいを女子大生の頃読み、子育ての悩みや前夫とポーランドで暮らしてる話を子供のない頃に読み、人生のちょっと前を歩いていた人が、なにやら今度は自分の昔話にひきずられながら新しい家族とアメリカで暮らしている。食べ物の話だけど、言ってることは自分のルーツな話だ。あたたかいごはんとしょうゆを想い、それに飢えている自分の状況を足踏みしている話だ。前夫との思い出話がいっぱい出てきて、幸せに暮らしてるのだろうか彼女は、と心配になる。
・埴谷雄高、北杜夫「難解人間vs躁鬱人間」中央公論社
文学者っていうのは、こうして語りあかしてじーさんになっていくのだな。童話、無限大、ボレロ的。
・ジョン・レノン「絵本ジョンレノンセンス」晶文社
片岡義男が訳し、平野甲賀が装丁して、なんだか晶文社っぽい本。「追伸 私は絵が気に入ってます。」
・永田周一「おもいっきりシュタイナー学校」五月書房
タイトルがどうかなというセンスだけど、シュタイナー学校を子供に普通に語らせるとこうだよねと思う。オイリュトミーの授業はみんな嫌がってるとか。大人側の理念や主義なんか吹き飛んじゃうよね。
・山崎脩「中世祈りの、造形」東方出版
素材そのものに沈静している美しさと抽象的なイメージへと翼を広げていく美しさと。その両極の間で、人は求め続け彷徨っているのだと思う。ロマネスクの教会とゴシックの教会と。その時代を生きていた人々の観ていた世界観そのもの。いまはゴシック的なんだろうな。インターネットやら仮想現実やらって、光を浴びて天を仰ぐステンドグラス的じゃない。
・中島らも いしいしんじ「その辺の問題」リクルートダヴィンチ編集部
いしいしんじさんてこういうキャラだったんですね。関西のりでしたか。わざとえぐるというか、かぶりもの好きというか、普通にしゃちゃあいられないんでしょうね。
・「dimanche ディモンシェ 日曜のコーヒー的なシアワセ。」アスペクト
喫茶店は好きでしたが、ここまで音楽にははまらなかったですね。いや、これは男の子たちの世界ですね。女の子でこういう路線はあまり見なかったな。すごい沢山レコードのある店とかジャズががんがんかかっている店とか、やっぱり水先案内人がいないと入っていけない世界でした。でも日曜日は喫茶店っていうのはわかる。そういう日常が再びくることを願う。
・堀江敏幸「回送電車」中央公論社
同年代の文学青年のお友達がいないので、彼の著作を年を取りながら読んでいけることを嬉しく思う。どういうポジションで物書きをしていくかという心構えのようなものが、よくわかる、と感じている。刹那的に指の間からこぼれ落ちるような時間ではなく、波の音が果てしなく続く老境の時間をともに過ごしたい、と思うような相手。


12月   
いしいしんじ「麦ふみクーツェ」理論社
プラネタリウムよりつらさ感が少なくてちょっと寂しい。人物描写も薄いような気がしていまひとつ感情が入らなかった。
武田花「嬉しい街かど」文芸春秋
文章家(?)夫婦の娘だけど、文章よりやっぱり写真がいいなって思う。時間が流れてる感触が写真の中に感じる感じる。
杉浦伝宗「それでも建てたい!10坪の土地に広い家」講談社
この人の手法がいくつかあって、わかりやすい家。でも手法だけでもそれはそれでもの足らない。人生は手法の問題だけではないのだ。
山本ふみこ「暮らしのポケット」大和書房
婦人之友社編集出身の人でした。婦人之友、広告で見出しは見ても買ったことないね。正しい感じがすごくして、近づけないのか。婦人がつくとどうもね。この人もかわいらしいのりだけどやっぱり正しい執筆者ってかんじだ。
大平一枝文・小畑雄嗣写真「ジャンク・スタイル」コロナ・ブックス平凡社
ジャンクって名付けるのかー。ぴんとこないけど。このあたりの最近の流行を全部いっしょくたにするのも強引だとも思う。


藤森照信「藤森照信の原・現代住宅再見」TOTO出版★★   
戦後の日本におけるモダニズムの住宅。いいなあと思っていたあたりが、藤森せんせいの的確な語りで、なるほど!と思うことしきり。うちの好みとしては、清家清の「森博士の家」ですね。


11月   
「たたかうマイホーム」藤原智美
芥川賞作家が書く本っていう前書きか嫌よね。売れ線ねらいでなんだか。
「きもの日和」宇野千代 世界文化社
もっとはではでーな着物かと思っていました。趣味的にはうちの母的だな。
「こはるのふく」伊藤まさこ 文化出版局
この本も有山さんがアートディレクションしている。うー、やっぱり手にとってしまう。女の子の服つくる機会ないのに、借りるだけで嬉しい。あー女の子の服は可愛い。
「持たない生活」向山昌子 晶文社
女の人がこういうことを語る本は、もう出尽くしているなと思う。新鮮味があまりないです。


いしいしんじ「プラネタリウムのふたご」講談社★★   
考えてみると、第1次読書熱の高まりは小学校3年生の時で、図書室の本を借りまくり読みまくりました。学校から帰ってきて本を開き、部屋が薄暗くなっても電気のスイッチを入れる間も惜しんで読みふけり、結果眼鏡のお世話になる人生となったわけです。しかしそれ以後、そんなにまでして本の世界に没入したことがあるだろうか。そんなおはなしに巡り会っているだろうか。この本で私はしばらくぶりに、本を読むことの快感に、素直に身を投じました。本を開いて現れるその世界にどっぷりと浸かりました。途中2回くらい泣ける山場があるのですが、なんとかきりぬけ、でも最後は号泣。そうなるんじゃないかと予測して、最後のところは、皆が寝静まった夜中に布団の中でこっそり読んだのですが、正解でした。翌日眼を腫らせて、「昨夜は泣いたよ。この本で。」と、家族に自慢しました。


10月   
松長絵菜「バナナがあったらどうするの?」女子栄養大学出版部
ちょっと幼いかな。でもこういう甘さが最近の女の子たちに支持されてる。
山本ふみこ「食卓のこころ」PHP研究所
今、暮らしにまつわるエッセイを書かせるならこの人かなってかんじの売れっ子のひと。やっぱり「ていねい」がキーワードかな。
川上弘美「ありがとう」新潮社
小動物とか出てくるのは苦手だけど、おとこのひととおんなのひとの会話の場面なんかは魅力的で、ずっとその場面を眺めていたくなるようなうまさ。
沼田元氣・堀内隆志「ぼくの伯父さんの喫茶店学入門」ブルース・インターアクションズ
沼田さんがんばってますねえ。盆栽ルックの頃からちょっとおじさんになったかな。京都や東京のような都市ではないけど喫茶店文化が根付いていた三河地区に育ったものとしては、お、いいこといってんじゃん、って思うとこもありました。


島尾ミホ・石牟礼道子「ヤポネシアの海岸から」弦書房★   
「死の棘」についてユーモラスだと評し、それをうれしゅうございますと返す、この世のものではないような二人の話を、親戚の大人たちの話を黙って座って聞いているように読んだ。ルリカケスとお話しできたミホさんと家族の話のようであって家族の話でない話を書いた島尾敏雄氏を両親に持った島尾伸三氏と、ミホさんとは又違った印象の無垢な人潮田とくこさんとその子供島尾まほちゃんと、時の流れと血の流れを勝手に思うヤポネシアの海辺。


アーサー・ビナード「空からやってきた魚」草思社★   
日本語を母国語としない人間が書いたとは思えないうまさ。言葉による道案内がとても上手で、きっとどんな国の言葉を使ってもこの人はうまく読み手を彼の世界に導くのだろうと思う。そういう意味でこの人の英語をつかってかいたものも読んでみたいと思う。この人の使う英語で英語の世界を感じてみたい。ちょっとした世界の謎や言葉の秘密や楽しい小話はとても親しく感じられて、お友達になってぜひ鈴虫をお裾分けしてもらいたいものだ。

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